再び大便所に舞い戻り, ドアをロックした彼は, 物も言わずに打ち捨てられたズボンを取り上げ, その汚染箇所を調べた. しばし考えた彼は, 先ほどチェックしたアイテムのひとつ, ジッポのライターを取り出し, ズボンの膝の部分の縫い目にその炎を当てた. しばし経ち, 縫い目が焦げてきたころを見計らい, さらにいま一つの持ち物, 自転車の鍵をそこにあてがい, 糸をほどきにかかった...

[図1: 汚染状況と切断線]
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...暫くして, ズボンを膝下で切断した, 2本の布製の筒が出来上がった. 賢明な読者なら最早お気付きであろう. 彼がその朝穿いていたデニムのズボンは縫製が頑丈で, ちょっとやそっとのことでは切断することが出来ない.
ましてや, 人間の便に徹底的に茶色く汚染されたズボンである.
とても糸切り歯など使う気にはなれないというものだ.
そこで彼は考えた. 猿でさえ, 畜生の分際でありながら, 高いところの物を採るには道具を使うというではないか. 自分だって, 知恵を使う余地はある.
ははは, しかし, 頑丈なズボンを焼き切るという,
ライターにかような使いみちがあるとは,
よもやお釈迦さまだって知る由はあんめい.

[図2:つつ装着図]
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彼は何やらぶつぶつと独り言をいいながら, その2本の布の筒を脚に通していった.
ズボンの先端部分は, それほど濁流の被害を甘んじなかったので,
外側からでは変色を察知することはかなわない.
筒の先を太股のほうにまで上げると, それは固定された. ロングコートを降ろしてみると, 一見したところ普通のズボンを穿いているようにしか見えない. ちょっと裾がはだけたところで, ちょっと変わったスパッツかというところだ. いや, こいつぁ, お釈迦さまでも気がつくめぇ.
こころの嬉しさを隠しきれないのだろうか, 同じようなせりふを二度吐く森本(仮名)であった.
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