朝の連載小説
くる こう もん

第八話「脱出」


公衆便所の外には, 爽やかな朝の風景がひろがっていた.

ジョギングに勤しむひとびと, 仔犬を散歩させる老人. 仲間集う若人, そして ボール持て遊べる こどもたち.

森本(仮名)は, 悪臭漂う便所の出口から一歩踏み出そうとしたまま, しかしどうしてもそれ以上外に進めないのだった.
下半身素っ裸の上に羽織ったロングコートの前を, 合わせる両手に力が篭る.

...なにくそ!

まさに今朝の彼の行動のキーワードであったその卑語を頭に浮かべ, 彼はゆっくり, 一歩ずつ, あるきだした.

しかし, 何かか彼の頭の中で警鐘を鳴らしつづけていたのだった. 何かがおかしい.
それに気付いたのは, トレパン姿で競歩するオバさんたちと近距離で行き違った時であった. 彼女らの視線は, 彼の足元に釘付けになっていたのである.

「あっ! しまった! 毛ずねが丸出しだ!」

パンツとズボンを汚染してしまい, ハンカチとTシャツと靴下をも, 己の尻の清掃に失ってしまった彼である. 当然, 腿や下脚部やくるぶしにまとわれるべき服飾品は無い. 靴だって, 決して無傷ではないのだ.

ただ股間さえ隠れればいい,
大事な一物さえ人様の眼に触れなければよい,
ただそれのみを考えていたがゆえの,
過ち.
いま, 彼のもくろみにおける重大な過ちが白天の基に晒されようとしていた.

彼はもはや, 冷静に歩をすすめることができなかった. しばらくして彼は立ち止まり...そして, 一目散に再びトイレへと駆け込んだのであった.


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