朝の連載小説
くる こう もん

第六話「模索」


しかし, そのケイちゃんなる人物が, 替えパンツと替えズボンを気前良く差し出し, さらに毎週ワックスをかけ毎月3万円のローンを払っている日産シルビアQ'sでさっそうと登場してくれるとは, 到底思えなかった.
しかも, 彼の車は土足禁止, いわゆる「土禁」である.
土禁の車が, いわんや「便禁」であると考えることに,さほど想像力はいらない.

「そうだ, 自宅の母親に電話して助けに来てもらおう!」

...やっぱり駄目だ. 恐らく, 母親がここへの交通手段としてタクシーを用いることは必定, しかし小金井公園は広い. そのタクシーと自分は, 一体どうやってランデブーすればよいのだ.

今いる公衆便所は小金井公園のかなり奥まったところにある. 公園の入り口からここに走ってくるまでの道筋を, 若干方向音痴の気がある母親に, しかも電話でどうやって伝えればよいのか.

また, うまく事がスタートし, タクシーが小金井公園までうまくやってこれたとしても, 母親が公園入口〜公園内私道〜駐車場入口〜公衆便所までの経路情報をタクシーの運転手に伝えるまでに, いったいどれほどの情報量減少とエントロピー増加を見越しておけばよいのだ.
おまけに, やってくるタクシーを表で待ち受けようにも, 自分は, タクシーから見える場所にいつまでもたたずんでいる訳にはいかない.

もう, おれは, まともに太陽の光を浴びていられる身体ではなくなってしまったのだ.


待てよ. おお, そうだ. 自分がいま居る公衆便所の近くには, 舗装されたロータリーがあったではないか. おまけにこのロータリー, 隣に駐車場があることも手伝って, 街道からも入りやすい. ここだ. ここを待ち合わせ場所にすれば!


...駄目だ. この大便所には, 唯一つの窓さえない. タクシーが到着したとしても, その姿は見えず, そしてその音さえ聞こえず, クラクションでも鳴らしてもらわない限り, 自分には何の行動も取れないだろう.

彼は思い浮かべた. 昼の光のなか, 公園のロータリーにタクシーが進入し, 到着合図のクラクションをいつまでも鳴らしている. 停車禁止のロータリー. わたしの居場所がわからない限り止まることができないタクシー. いつまでもロータリーをぐるぐると回るタクシー. 後席でおろおろするばかりの母. 回転走行の横Gに耐えながら苦り切った表情を浮かべる運転手. 何事が起ったのかと集まってくるひとびと.
そして, そのなかを下半身まるだしに近い格好で走り抜けなければならない己の姿...
「いや, こんなことではだめだ!」自分自身の力で, この地獄から這いあがらなければ!
不覚.... 森本(仮名)は強く頭を振って, 他人の力にすがろうとする自分の弱さを追い払った.


まず冷静になろう.
森本(仮名)は, まず自分の持ち物を調べ, それを使っていったい何ができるのかを, 模索しはじめた.


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