| くる | こう | もん | ||
| 狂 | え | る | 肛 | 門 |
森本(仮名)は, 区民グランドの入口をくぐり, 広場へ抜ける森のなかの砂利道を, 黒いロングコートをひきずりつつ, ぎこちない足取りで駆けていた. 彼の眼差しは, 脇の茂み, 木の柵の裏, 標識の横などへと, そこかしこへと, 向かう.
「...どこか, どこでもいいから,しゃがめる場所を...」
下腹部のいたみは, 次第にその勢力を増し,
脈打つような轟きとなって彼の全身を満たし,
身振るいさせ, 足取りを奪い,
そして今や,
心臓のパルスの高まりと一体化しようとしていた.
駆ける森本(仮名)の左前方,
砂利道から少し森の方に分け行ったあたりに,
木造の小さな小屋が見えてきた.
恐らくグラウンドの補修にでも使われるのであろう,
スコップや手押し車などが立てかけてある.
森本(仮名)は,
その朽ちかけたあずまやの裏手へと駆け込んだ.
果たしておれはここにしゃがんで用を足そうとしているのだろうか. 思わず森本(仮名)は己に問うた. いくら森のなかとはいえ, 朝の光は, 武蔵野のクヌギや杉の葉裏を透かし, 容赦なく森本(仮名)の姿を照らし出してしまうだろう. ...しかし彼には, もう判断の余地は残されていなかったのである. 周期的に頭のてっぺんから爪先へと駆け抜ける悪寒. 彼は立ち止まった. ひとたびしゃがみこんだならばそれが最後, もう彼には己の姿勢を取り直す余裕, わずかな身じろぎをする自由さえなくなってしまうのだ...
森本(仮名)はしゃがみこんだ.
まさにその時, 彼の体に, 氷の刃で刺し抜かれたようなショックが走った. 突然, 背後に何者かの気配を感じたのである.
「もしもし!」
推何する背後の男の声に, 森本(仮名)は, 自分に残されたすべての力を, 鋼のように括約筋に込め, 両手を握りしめ, 歯を食いしばって立ち上がった.
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